最近、人の死に触れることが少なくない。


昨年は祖母が他界し、
仕事仲間のご両親が亡くなったり
先日も友人のお母さんの訃報を聞いたり。

亡くなった人と話すことはできない。
それは自分の母であっても同じこと。

だからこそ「元気なうちにたくさん話そう」
いつも思う。
思いながら、なかなかできない。

* * *

母は9月で65歳になる。
誕生日の記念に
2人で旅行に行くことにした。
行くなら、今だなと。

「アンタと2人で旅行なんて、最初で最後かもね」
母が言う。
確かにそうかもしれない。

山歩きが好きな母。
でも、足があまり良くない。
(仕事をする分には差し支えない)



尾瀬を選んだ。
アップダウンの少ないコースもあるし、
1,500m程度の標高があり山気分も味わえる。

2人とも、何より星空を楽しみにしていた。
晴れていれば、満天の星を見られる尾瀬。

馬鹿みたいに重いなと詰め込んだカメラ。
体重計で測ると、荷物は15kg近かった。
星も撮りたいから仕方がない。
こういう時のために体を鍛えているとも言える。

ざっくり予定を立てて宿を取り、
始発に乗って尾瀬へ向かった。
(訪問は2019年8月28〜29日)



雨の尾瀬をふたりじめ


初日は朝から雨だった。
8月の尾瀬はオフシーズンに当たる。
水芭蕉は咲き終わり、花も少ない。
従って、人も少ない。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_1

雨の尾瀬ヶ原。
雲ばかりで、山はほぼ見えない。

人と1時間以上会わないこともあり、
尾瀬を「ふたりじめ」したような気分。

ぽつりぽつりと話をしながら、
誰もいない尾瀬をゆっくり歩く。
漫才のような会話がひたすら続く。
これはこれで、良い時間だとしみじみ思う。
その光景は、若干シュールでもある。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_2

ところどころにある沢がきれい。
水の音、聞くと落ち着くな。

僕は熊(ツキノワグマ)が怖くて、
黒いものを見つけるたびに
「あ! 熊じゃない!?」とビビってしまう。
結局2日間とも、熊に会うことはなかった。
(ほっ)

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_3

黙々と木道を歩く母。
その後ろ姿は元気に見える。
今のところ、本当に元気なんだけど…
ピンクの雨具が1サイズ小さいのが気になる。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_4_花

花が少ないと言われる8月の尾瀬。
意外とさまざまな花があちこちに咲いていて
途中途中で足を止めてその様を楽しんだ。



雨の中、4時間ほど歩いて山荘に到着。
翌朝までゆっくり過ごそう。

夜には雨が上がり、
少しでも星が見えることに期待したい。



元湯山荘で楽しむ「何もしない」時間


「今夜は、星は見えないと思います」

元湯山荘に着いて聞いた
受付のお姉さんの一言が胸に来る。

出版社時代の1つ下の後輩によく似た
可愛い色白のお嬢さんが受付をしていた。

サービス的には星5つ(★★★★★)なのだけど
星が見えないのは非常に残念な現実。

尾瀬_元湯山荘_3

泊まった元湯山荘。
煙突のある茶色い外観がキュート。

温泉もあり、
「風呂には入りたい」という母の願いを
100%叶えられる山荘だと思って選んだ。

尾瀬_元湯山荘_1

雨の中歩いてお疲れの記念撮影。
星は撮れなかったけれど
かついできた三脚がここで役に立つ。

尾瀬_元湯山荘_2

とりあえず生ビールで乾杯。
うまい。
山だと普段は食べないポテチもおいしい。

尾瀬_夏の野鳥

ぼーっと景色を眺めていたら、鳥が来た。

* * *

温泉に入って汗を流した後は夕飯。
歩くと意外に腹が減る。

尾瀬_湯元山荘_食事(夕飯)

山のごはんとは思えないほど豪華な食事。
味噌汁が特においしかった。

夕飯をいただいたら、することがない。
携帯の電波はもちろん、テレビもない。
当然、仕事などできるはずもない。

母はいつも仕事ばかりだから、
たまにはこういう時間も良いと思った。

つながらない携帯を眺めては
「あー、◯◯大丈夫かな」と
すぐ仕事の話をしたがる。

それはさて置き、ゆっくりしようよ。
どうせ何もできないのだから。

夜の7時過ぎには布団を敷き、休むことに。
「こんなに早く寝られない」とブツブツ言いながら
割とすぐに寝ていたのは誰かしら。



2日目|奇跡の晴れ間


2日目も朝から雨。
どれだけ窓の外を眺めても雨しか見えない。

雨具を着込んで山荘を出発。
予定通りに歩ければ、夕方には船橋に着く。



1時間ほど歩いて再び尾瀬ヶ原に出たとき。
急に雲が切れ、青空が顔を出した。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_6

やはり青空にはすごい魅力があって、
それだけでテンション急上昇。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_5

雲が切れ、
1日目は全く見えなかった山々が顔を出す。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_燧ヶ岳

この辺りで一番高い燧ヶ岳(ひうちがたけ)も。

「(青空が)良い誕生日プレゼントになったね」
と僕が言うと。

「私、いつも運が良いから(笑)」
と母が返す。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_7

せっかく三脚を持ってきたので、
晴れたところで記念撮影。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_8

気分は上がり、ワクワクしながら足取りは速く。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_9_ヒツジグサ

雨上がりのヒツジグサの葉がキラキラ。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_9

小さな沼に映る山。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_12

早くもときどき紅葉が見られたり。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_13

沢を眺めて涼を感じながら

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_11_至仏山

至仏山方向を目指す。
本当にきれい。

尾瀬ケ原2019_夏(8月)_10_至仏山

エクスプローラー(探検家)的な母の後ろ姿。
昨日と全然違うなあ。

バス停のある鳩待峠に近付くにつれて、
また雨が降ってきた。

晴れていたのは尾瀬ヶ原を歩いた2時間だけ。
やっぱりこれは、
65歳の誕生日プレゼントだと思いたい。



写真は手作りアルバムに


撮った写真は、手作りのアルバムにしよう。
9月6日の誕生日に合わせて仕上げたい。

デジタルで冊子にすることも考えたけれど
スタンプやらチケットやらをペタペタ貼れる
アナログのアルバム作りも楽しいと思う。

時々つらそうだったり、息が切れていたり。
一緒に歩きながら「歳をとったなあ」と思った。
(言うと怒られる)

「元気なうちに、今のうち」
のんびりいろいろ話せた、良い旅行だった。