いつもの通勤路に、気になる看板が出きていた。
いつ出来たかは分からないが、比較的最近のこと。
手作り腕時計?
ここは船橋市高根。
周りにあるのは小さなアパート、一軒家、神社、そして畑。
時計屋ができるような感じはあまり無い。
だから気になった。
これが駅前だったら素通りしていたかもしれない。
寄ろうと思いつつ機を逃し続け。
何度目かの正直でこの日、初めて店内に足を踏み入れた。
手作り腕時計の店、SAZANCA(さざんか)。
面白い話を伺うことができた。
* * *
細道を入ると、そこにあったのは焦げ茶の家。
ぱっと見はカフェかパン屋。
看板がなければまず時計屋だとは思わない。
どんな人が作ってるんだろう?
黒縁メガネの小柄な若い女性か。
頑固な職人風のオジサンか。
色んな意味でドキドキする。
中で迎えてくれたのは男性。
すらっとした、優しそうな方だった。
若いな、と思った。
後で朝日新聞の記事を当たり、28歳だと分かった。
お名前は高橋さん。
時計、見てもいいですか?
当たり前過ぎる質問。
ここは時計屋だと言うのに。
様々な色、形の時計が並ぶ。
時計には疎い。
1万円~2万円の価格が安いのか高いのか判断がつかない。
ただ、一つ一つに手作り独特の雰囲気があるのは分かる。
女性向きの作品。
こちらは男性用っぽい。
ブレスレットと時計が合体したような洒落たデザイン。
ベルトの色も綺麗で、これが一番いいなと。
「針、リューズ、ムーブメント以外は全部手作りなんです。」
高橋さんがさり気ない感じで話しかけて来てくださった。
硝子の部分もですか?
「そうですね。正確にはアクリルです。」
器用なんだなぁ。
素直に感心してしまう。
一つ作るのにどれくらい時間が掛かるんだろう。
「本体は集中して6時間くらいですかね。ただ、革も自分で染めてるので結局3日くらい掛かっちゃいます。」
なるほど。
好きじゃないと、きっとできない。
お店の前はいつも通ってるんです。仕事場が芝山で。実家も芝山です。船橋出身ですか?
「はい。」
サザンカ(市の花)という店名をつけるくらいだから、船橋にゆかりのある方だと思ったがやはり。
どこ中(学校)?と聞きたい気持ちをグッとこらえる。
なぜ腕時計を作ろうと思ったんですか?
「以前は別の仕事をしていまして。自分へのご褒美で腕時計を買ったことがあるんです。有名なブランドのやつで良い値段がしましたね。そうしたらある日、電車で隣に座っていた人が私と全く同じ腕時計をしていて。これがショックで自分で作ろうと思ったんです。誰も持っていない世界に一つだけの腕時計を。」
すごいなぁ。
同じ腕時計をした人に出会うことはあるかもしれない。
でもそこで自分で作ろうとはなかなか思えない。
高橋さんはその最初に作った時計を見せてくださった。
黄緑色のバンドに四角い顔の時計。
「初めは趣味で作っていました。それが結構楽しくて。ネットで売りに出したら好評だったんです。」
評判が評判を呼び、高橋さんは三越の中にまで店を持つようになったと言う。
「デパートも良いことばかりじゃなかったですね。たくさん売らなきゃいけないし、たくさん作らなきゃいけない。中国などに製作をお願いするようになって。大量生産です。これって自分がやりたいことではないと、思い直しました。」
そうしてこのお店、 SAZANCAをアトリエ兼ショップとして構えるに至る。
僕は今そこで腕時計を見て、高橋さんと話をしている。
「東京や神奈川から見に来てくださる方もいらっしゃいます。」
見る人が見ればきっと分かるのだろう。
一点一点にこめられた価値。
* * *
キッカケは電車で偶然に隣り合わせた人。
趣味ではじめた時計づくりが商売に。
何が仕事につながるか分からないもんだとしみじみ。
趣味でも好きなことなら続けよう。
いろんなものに興味を持とう。
思った。
高橋さんは今日も。
あの静かな工房で黙々と時計を作っているんだろうな。
◆手作り腕時計の店「SAZANCA」
・web
・住所 船橋市高根町728-1
・営業 11:00~19:00/火水定休
・ほか 駐車場あり
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