船橋の焼肉宝島から市場通りに向かう道。
海老川沿いを車で走っていると、左手に不思議な風車(ふうしゃ)が見える。
この風車が何なのか、長年の謎だった。
発電用でも無さそうだし、なんで畑の中に風車が…。
先日、この風車のことを知人が教えてくれた。
どうやら井戸を組み上げる動力らしい。
畑のど真ん中にある風車、そして井戸。
これは何かあるなと、風車の主に話を聞きに行ってきた。
すると、思いもよらない秘密が分かった。
* * *
住所は船橋市東町。
地図で見るとこの辺り。
周りは一面の畑。
東葉高速の駅ができるのではと囁かれたりもするエリアだが、今のところその様子は全くない。
海老川沿いの道から細道へ左折。
車を停めて、人のいる方へ。
「安藤と申します。この風車について教えて頂けませんか?」
「あら~!興味あるの?好きに見ていってね。」
畑で作業をされていたお母さんが笑顔で迎えてくれた。
一緒に敷地内をご案内くださった。
学生さん?と訊かれて嬉しかったことは書かないでおく。
間近で見る風車。思ったよりも大きい。
時折風に吹かれ、ゆっくりと回る。
そばには井戸。
西尾さんと呼ばれた男性が、井戸について教えてくれた。
これは「上総掘り」という千葉県伝統の工法で作られた井戸。
先端に金属のついた竹一本だけで井戸は掘られている。
大きな機材を必要としないことから、新興国にも技術が輸出されているらしい。
「お兄さん、水が出るからやってみなよ。」
思ったよりもレバーの手応えは柔らかく、力は必要ない。
四、五回レバーを上下させると、ちょろちょろと水が出てきた。
「ほら、こっちに川があるでしょう。」
再び先のお母さん。
井戸水の流れる先には小さな川があった。
「ここはね、ぜーんぶ県の土地なの。もともとは蛍がもう一度飛ぶ場所を作ろうっていう活動。22ヘクタールの調整池が出来る予定なんだけど、お金が無いらしくて全然進まなくてね。その間、私たちボランティアがこの場所を綺麗にしたりで、管理しているのよ。」
「あっちで男の人たちが木を切っているでしょ。なーんにもしないとどんどん荒れていっちゃうから。でも年寄りばっかりで大変。若い人が手伝ってくれるといいんだけどねえ。」
この木ではクワガタも採れるらしい。
「私たちはね、ここを自然いっぱいのビオトープにしたいの。畑があって、虫がたくさんいて。子どもも老人も憩えるような、そんな場所にしたいの。その日まで頑張らなきゃね。」
ビオトープとは「生き物がありのままに生息する場所」のこと。
人によって再構成された自然環境を指す。
何気なく眺めていた風車の周りに、そんな計画があったなんて知らなかった。
今日話を聞きに行かなかったら、ビオトープ計画のことも、ボランティアさんたちが一生懸命管理していることもずっと知らなかったままだっただろう。
「お金はもらえないけどね。ご褒美はたくさん鳥たちが寄ってくることね。」
嬉しそうに語るお母さんのそばには、ここで撮ったであろう鳥たちの写真が飾られていた。
どうやら30種類以上の野鳥が観測できるらしい。
* * *
数年後、十数年後、ここに美しいビオトープができるのかもしれない。
この場所を車で走るとき、誰かいるかな?と気にするようになった。
話を聞いた後、風車と一緒に撮った朝焼けの写真を眺めると。
いっそう綺麗に見える気がした。
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