毎週火曜、楽膳さんに行く。
行けないこともあるけど、だいたい行く。 
家事を終えて散歩がてら、一人で。
週に一度のお愉しみ。


楽膳さんは曜日ごとにアルバイトが固定。
だから火曜に行くと、いつも同じスタッフさんが迎えてくれる。 

火曜のアルバイトさんは料理を運ぶとき、
「刺身の盛り合わせでございます。」 
 と言う。

「ございます」はともすれば仰々しくなるが、
 この方の「ございます」はサラッとしていて好きだ。


そんなことを考えながら飲んでいたとき。

おもむろに店主の荻野さんがこんな話をしてくださった。

サザエの姿造り

そういや昔働いてた店でさ。
「サザエでございます。」ってサザエをお客さまに出した女の子がいてさ。
申し訳ねえけど笑っちゃったよ。


 
  (参考:サザエさんオープニング)

確かにそんな風にサザエを出されたら笑ってしまう。
ご本人は真面目だったと思うけれど。 

* * *

これだけなら単なる小話で終わるところ。

さすが楽膳。
いや、荻野さん。
持っておられる。

サザエの話をした直後、
その「サザエでございます」の女の子が本当に楽膳さんにやって来た。

それも二年ぶりに。予約無しで。

驚いた。

すごい偶然。

もしかしたら必然なのかもしれない。

「おう、久しぶりだね!」 

カウンター越し、女の子に話しかける荻野さん。
どこか懐かしげで、嬉しそうだった。

「安藤くんほら、さっきの話のコだよ。」 

ちらり横をみると、女の子も嬉しそうだった。

こうして荻野さんを慕って、人が集まる。
僕もその一人。

もう少しだけ飲んでいくことにした。

荻野さん(2013年夏・モノクロ)

料理が美味しいのはもちろん。
こんな素敵な偶然に出会えるから、また楽膳に行きたくなる。