ザクロの花が咲いていた。

ザクロの花

ふと小さい時のことを思い出す。

* * *

祖父の生家は千葉県の市原市にある。
「あった」と言う方が正確かもしれない。

市原市の八幡。
そこには祖父の妹、つまり大叔母が住んでいた。
「八幡のおばちゃん」と呼んでいた。
小柄で笑うと目がつぶれた。


小学生の頃。
祖父はよく八幡のおばちゃんの所へ連れて行ってくれた。
一人で行くこともあった。
ガラガラの内房線は知らない駅ばかりだった。

八幡のおばちゃんの家は昔ながらの平屋。
外にいた毛の長い犬(名前は忘れた)が怖くて、そーっとピンポンを押した。


八幡のおばちゃんは畑をやっていた。

「しんちゃん、畑いくか?」 

同じ千葉なのに独特の訛りがあった。
それが好きだった。

毎回、畑に行くのを楽しみにしていた。
腰を曲げて歩くおばちゃんの陰を踏みながら、
少し離れた畑へ向かう。 


川沿いにある畑。
小学校のグランド半分ぐらいの広さがあった。
子どもだったから、実際より大きく見えたかもしれない。

船橋にいるとき、畑は「入ってはいけない場所」だったから、ワクワクした。

畑を駆けまわり、木に登る。
靴はドロドロになり、家に帰れば母に怒られた。
それでも満足だった。

八幡のおばちゃんといっしょに、野菜を採った。
不器用に曲がったキュウリ、大きなオクラ。

採った野菜はおばちゃんの家で食べた。

ほくほくのトウモロコシ。
つんと冷えたトマト。

ただそれだけで美味かった。
自分で収穫したから、なおさら旨い。

小さいときから野菜が大好きだった。 
今でも変わらない。
それは八幡のおばちゃんのおかげかもしれない。 

畑で採った中でも、特別なものがあった。

ザクロの実

ザクロの実。
(実の写真はwikiより)

酸っぱかった。

でも好きだった。

赤くキラキラ輝く実。
どうしても特別だった。


ザクロはそのまま八幡のおばちゃんの思い出。
色あせた記憶の中で、ザクロの花が今も咲いている。
 
* * * 

祖父にも、八幡のおばちゃんにも。
もう会うことはできない。

空2013年6月24日

空を見るにつけ、また懐かしくなった。